たべラボログ

熊本県立大学の食育推進グループ「たべラボ」から食に関する情報をお届けします。

3.分かっているのに変われない。食生活改善が難しい理由(前編)


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「ダイエットを始めようと思って、もう1年がたつ」

「揚げ物、甘いものがやめられない」

「自炊しようと思っているのに、気が付けば外食ばかり」

こんな経験はありませんか?

 

自分はなんて意志が弱いんだ。めんどうくさがりだからしょうがない。

そんな風にあきらめる必要はありません。

 

実は、食生活を変えることが難しいのには理由があります。

この理由を知れば、適切な対策をとることができるようになり、今より楽に食生活を変える方法を身に着けることができるでしょう。

 

頭の中に2人の自分がいる!

■変わるのを全力で阻止するシステム1

 

まずは、この写真を見てください。

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・・・・・・・・・・・

どんな風に感じましたか?

 

おいしそう!たべたい!

よだれがジュル。。。

 

甘いものが嫌いな人以外は、そんな風に感じたんじゃないでしょうか。

そして、よくよく観察すると体も反応している(よだれジュル)。

 

このように、大好きな食べ物を見た瞬間に反応するのは、頭の中のシステム1という思考です。

 

人間の脳には、システム1、システム2という2つの思考があるといわれています。

これら2つの思考は、ある時は支えあいながら、ある時は拮抗しながら私たちの日常をささえています。

 

システム1は、反射的な早い思考

システム2は、じっくり考える遅い思考

と言われていて、それぞれ対照的な特徴があります。

システム1の特徴は、無意識、省エネ、即反応、即行動です。

人間が動物として生きていくために必要な思考だといえます。

 

その他、こんな特徴※1があるといわれています。

システム1の特徴

1.好きか嫌いか即座に判断する

  例)人は見た目が9割、第1印象は3~5秒で決まる「メラビアンの法則

2.自動的かつ高速で機能し、自分でコントロールする感覚はない

  例)おいしそう!よだれジュル

3.訓練すれば、反応や直感を作れる 

  例)テニス選手が練習を重ねて、無意識にボールに反応できるレベルまで達する

4.疑わずに信じる

5.信じたことを裏付けようとするバイアスがある

  例)確証バイアス:「今の変わらないままの自分が正しい」を裏付ける情報を集め始める

6.感情的な印象で全てを評価する(ハロー効果、後光効果)

  例)好きな人がやることはすべて素晴らしく思え、嫌いな人がやることはすべて腹立たしく感じる

7.手元の情報だけを重視し手元にない情報は無視(見たものが全て)

8.状態よりも変化に敏感

9.損失回避の法則:損した時の痛みは利益の2倍強く感じる

10.保有効果:自分が持っているものを実際の価値よりも(たいてい2倍)高く見積もる―サンクコスト:「せっかくここまで○○したのにもったいない!」続けることで失う損失より、続けて来た時間や労力にとらわれて合理的な判断ができない

 

・・・・・実際にはまだまだ続きます・・・・・・・

 

ここでピンときた方もいるのではないでしょうか。

システム1が変わることを全力で阻止してくるのは、この⑧⑨⑩の特徴のためです。

変わることに敏感に反応し、変わることで失うものがある場合は、たとえ得られるものがあったとしても、かたくなに阻止してしまうのです。

 

例えば、ダイエットをしたいと考えていても、これまでいつもあったおいしいものを食べる機会を失うことにシステム1は耐えられないのです。

 

変化を嫌う特徴は、もともとは生命維持のためでした。

 

社会が形成されるより前、人間が生き抜く環境は過酷でした。

これまで生きてこられた環境や方法を下手にかえると、死んでしまうかもしれません。

―いつも利用している水飲み場に見慣れない動物がいる。

―新しいえさ場には、どんな危険があるかわからない。

生き抜くため、こんな変化に敏感になり、少しでもリスクがある場合は簡単に変化に飛びつかなくなったのです。

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■甘いもの、脂っこいもの大好きシステム1

 

また、飢えて死なないように、システム1は食べ物の情報にも敏感です。

今みたいに飽食の時代は、せいぜい50年程度のものです。

それ以前は、ずっと飢餓との戦いでした。

今食べないと、次いつ食べられるかわからないのですから、

食べ物を見つけたら即食べるのが、生存本能として当然なのです。

 

さらに、現代の私たちが避けたいカロリーの高い甘いもの、脂っこいものは、

生存本能的には何としてでも食べておきたいものなのです。

 

■賢いけどすぐ疲れちゃうシステム2

しかし、この生存本能、現在の社会では、先ほどのダイエットの例のようにたびたび問題になります。甘いもの、脂っこいものを本能のままに食べ続けたら、生活習慣病になり、生命も脅かされます。このような問題を回避する際、システム2が活躍します。

 

システム2の特徴は、意識し、ゆっくりよく考えて判断、行動することです。

そのため、システム2は、人間が社会的生活を送るうえで必要になってきた思考だといえます。

 

こう聞くと、システム2は知性的で有能な秘書のようですが、弱点があります。

それは、疲れやすく、感情的になっているときはシステム1を手放しで擁護してしまうことです。

 

例えば、先ほどのケーキを見たとき、

システム1は、反射的においしそう!たべたい!と思い、生命維持のため、カロリーの高そうなケーキをすぐに食べようとします。

 

一方、システム2は、ダイエット中だったことを思い出し、ケーキを食べることを我慢しようとします。しかし、我慢すればするほど、ケーキのことが頭から離れなくなり、疲れきってしまったシステム2は、ケーキを食べることの言い訳をしはじめます。

 

今日は疲れてるし、せっかく買ってきたんだし、次いつケーキ食べられるかわからないし、ケーキに乗っているイチゴはビタミンCたっぷりで美容にいいし、食べないとストレスがたまるし、ダイエットは明日からにしよう。。。

 

このように、往々にして、システム2はシステム1にひっぱられがちです。

 

これらシステム1,2の働きと特性をしらずに食生活を変えることは困難を極めます。

「ダイエットは明日から」や、3日坊主はこうして出来上がるのです。

 

システム1は、変化を全力で阻止してくる

システム2は、疲れやすくシステム1を擁護しがち

 

この特性を踏まえたうえで、本能に逆らわず食生活を変える方法について紹介していきます。

 

■参考資料

※1 ダニエル・カーネマン:ファスト&スロー、早川書房、2012年