4.分かっているのに変われない。食生活改善が難しい理由(後編)
現代は自然と食生活が乱れる時代
食生活改善を邪魔するのは、人の思考だけではありません。
現在の私たちは、
何も対策をしなければ、自然と食生活が乱れてしまう環境におかれています。
■好きな時に好きなものを好きなだけ買える社会
スーパー、コンビニ、ファミリーレストラン、ファストフード店など、
おなかがすいたと思ったら、それこそ深夜でも食べることができる店は、今や当たり前になりました。
飢餓時代を乗り越え、
人類は好きな時に好きなものを好きなだけ買える社会を獲得したのです。
しかし、人間の脳は飢餓時代のまま。
あいかわらず、カロリーの高い甘いもの、脂っこいものを本能的に求めてしまいます。
その本能に答えるように、企業は次から次へと魅力的な商品を生み出します。
お買い得!(今買わないと損しちゃうかも「損失回避の法則」※1)前回記事参照
期間限定!(今食べないと、もう食べられないかも「損失回避の法則」)
かわいいキャラクターがPR(好きなキャラクターがPRする商品はすべて素晴らしくみえる「ハロー効果」)
加えて、いかにも本能を刺激するような、おいしそうな食品広告はいたるところにあふれています。
道端、テレビ、携帯電話・・・
広告を目にしない日はないくらいです。
システム1が反応しやすい、視覚と聴覚をフル活用した、考え抜かれた広告にあふれた環境の中で、理性としてのシステム2はあまりにも無力です。
■体にいいものほど高い
数々の誘惑を断ち切り、体にいいものを食べようと思ったら、次に待ち受けるのがお金の問題です。
現在日本の加工食品の価格は、甘いもの、脂っこいものは安く、健康に配慮したものは高い傾向があります。
理由は明確です。
砂糖と油は安く、野菜や果物などの素材はそれらに比較すると高いからです。
100%ストレート果汁のジュースをつくるより、無果汁で砂糖と酸味料、香料を添加したジュースの方が安く作ることができます。
しかも、天然の素材は季節や天候で収穫量が変わってしまう不安定なもので、保存するにも費用が掛かります。皮をむいたり繊維を取り除いたり、加工にも手間がかかります。
それに対し、砂糖や油は常温で保存できるうえに、収穫量も安定しています。輸送もはるかに容易にできます。
様々な技術革新により、素材を使っていなくても、本物らしい風味を作り出すことができるようになっています。
そうなると、加工食品にわざわざ高くて不安定な素材を使う理由はなくなってしまいます。
現在は、健康志向ブームですので、天然素材をふんだんに使ったことを売りにしている商品も出てきていますが、そういった商品はまだまだ価格が高い傾向にあるのではないでしょうか。
そうなると、損することが許せないシステム1は、安い食品を選びたくなってしまいます。
海外の大学生への調査でも、健康的な食行動を阻害する主要因のひとつは、健康的な食品の価格の高さであると報告されています※2。
■ストレスフル、疲労は不健康な食事を引き寄せる
この環境に追い打ちをかけるのは、ストレスと疲労です。
現代はストレス社会だといわれています。
誰かに怒られて落ち込んだ後のランチ時、
仕事で疲れた夕方16時、
無性に甘いものが食べたくなった経験はないでしょうか。
そう。ストレスが溜まっているとき、疲れているときは、甘いもの、脂っこいものへの欲求が高まってしまうのです!
また、すでにお伝えしたとおり、
疲れているとき、感情的な時はシステム2がシステム1を擁護してしまいます。そのため、ストレスが溜まっているとき、疲れているときに理性で食べることを阻止することなんて、もはや無理ゲーです。
・好きな時に好きなものを好きなだけ買える社会
・体にいいものほど高い
・ストレスフル、疲労は不健康な食事を引き寄せる
この3つの負のトライアングルにより、現代は自然と食生活が乱れる時代となってしまっているのです。
いよいよ次の回から、この絶体絶命に感じる私たちの食環境と、甘いもの大好き脳でもできる!食事を変えていくシンプルな方法についてお伝えしていきます。
■参考資料
※1 ダニエル・カーネマン:ファスト&スロー、早川書房、2012年
※2 Hilger J, Loerbroks A, Diehl K.:Eating behaviour of university students in Germany: Dietary intake, barriers to healthy eating and changes in eating behavior since the time of matriculation.Appetite.10,100-107(2017)